我々は変化の最先端で勝負することを誓います

会長菅原の自己陶酔録

”人生黄金律”

第15弾 週末のマドンナの法則

「週末のマドンナの法則」とは、
閉ざされた環境×時間経過がもたらす本能的自己欲求充足現象である。

「週末のマドンナの法則」とは、閉ざされた環境×時間経過がもたらす本能的自己欲求充足現象である。

伝家の宝刀

今回の法則について解説するにあたり、まず私の恥ずかしい新入社員の頃の話をしたいと思う。

今から23年前になるが、私は富士ゼロックスに新卒で入社した。(執筆当時)
4月1日に赤坂プリンスで入社式を終えると、そのままマイクロバスに乗せられ、千葉の流山研修所に新入社員全員搬送された。
そこからなんと約4~5ヶ月間、ずっと缶詰状態の研修生活を送ることになる。

研修は朝から晩まで続き、必ずその次の日に確認テストが行われ、受からなければ追試があるという、かなりハードな内容であった。
自慢じゃないが、私はその試験に毎日落ち続け、雪だるまのように複数の追試を抱え込んでしまった。
しびれを切らした私のトレーナーは、自分の部屋に私を呼び出し、「どうして勉強しないんだ?」と怒った。
私が「勉強はしています」と答えると、トレーナーは「勉強しているのなら、できないわけがないじゃないか!このまま勉強しないんだったら荷物をまとめて帰れ!」と、脅し混じりに説教をした。

本当のところ勉強はしていたのだが、記憶力が悪いのかなかなか頭に入らず、どうしても覚えられなかった。
私はとんでもない会社に入ってしまったのかもしれないと、少し不安になっていた。
どうして私だけ出来ないんだろう、他の人に比べて頭が悪いからだろうか?と思ったが、胸に手を当てよーく考えてみると、実は「こんなことを覚えて何になるんだろう」という気持ちが心の奥底に存在し、記憶を邪魔していることに気が付いた。

これ以上勉強しなければ帰れとトレーナーは言うが、本質的に自分の気持ちは変わりそうにない。
どうしたものか考えた抜いた結果、まさか社会人になってまで使うとは思わなかった伝家の宝刀を抜くことになってしまった。

それは私が学生時代最も得意としてきたカンニングのことである。

過去のあらゆる局面を乗り切ってきたこの必殺技を出すことにより、それからはまるで別人のように試験と追試に合格するようになった。
当然、成績はビリから上位の方に一気に駆け上がったのである。

特別にここで使った伝家の宝刀をお教えしよう。(下図参照)

伝家の宝刀

私の変貌ぶりを見て、トレーナーがまた私を呼んだ。
「菅原、やればできるじゃないか」と真面目に言われたが、その時私は「あ、はい」としか答えられなかった。
この会社は私の頭脳レベルではとてもついていけるようなところではないことを薄々悟りながらも、なんとか研修をこなす日々が続いたのである。

そんな中、毎週訪れるある不思議な現象に気が付いたのだ。

トレーナーがマドンナへ

研修所の宿泊施設は、一部屋に二段ベッドがいくつも置かれたタコ部屋で、そこに7~8人が詰め込まれた状態で寝泊まりしていた。
テレビなど何もなく完全に外の世界から隔離されていた。
当然、お酒は飲んではいけない。

タコ部屋状態

そして月曜日から金曜日までは研修所から一歩も外に出られず、決して面白いとは言えないクソ真面目な生活が続いた。
週末だけは、東京近郊に実家がある人は帰宅が許された。
ただ地方出身者はずっと研修所に寝泊まりしていた。
ちなみに私は宮崎の地方出身であるが、会社に内緒で都内にマンションを借りていたため、週末はそこに帰り、リフレッシュすることができた。

そんな規則正しく品行方正な月日を送っていた時に、毎週起こる不思議な心理現象に気がついたのだ。
それは男性トレーナーの中に紅一点いた女性トレーナーについてである。
年の頃は40前後、どう見ても生真面目で、目つきが岡本綾子似の、スキのないしっかりしたトレーナーだ。
当時、私は22歳。
当然だが、週はじめの月曜火曜はその人を普通のトレーナーとして見ている。
しかし週半ばの水曜日ぐらいからなんだかおかしくなり、週末の木曜金曜になるとだんだん女性に見えてくるという、そんな不思議な現象なのである。

最初はそうでもなかったが、週を重ねていくうちに明らかにこの現象が毎回起こることに気が付いた。
特に最後の金曜日になると色々なことまで想像が膨らんでしまう。
自分だけかと思い、他の同期に相談してみると、皆それらしき現象を起こしていた。

そこで私は、この女性トレーナーを「週末のマドンナ」と命名したのだ。

週末のマドンナ

マドンナ現象

この「週末のマドンナ」現象は、閉ざされた環境と時間経過によって起こる不思議な心理現象なのである。

ではなぜこのような事象が起こるのだろうか。

人間は、外界から閉ざされ、そこから外に出られない環境の下に、ある一定時間以上いると、選択が限られたその中で本能的に自己欲求を満たしたくなる習性があるのだ。
例えば、週末のマドンナのケースのように他に異性がいない状況が続くと、脳が時間の経過とともに環境に順応し、決してその気のない相手や対象範囲でない相手までも、いつの間にか自分のターゲットゾーンに入ってしまうという具合だ。

同様のケースで、スキー場のゲレンデや海外旅行中の海辺など、限られた中での異性との出会いは、明らかに普段と比べて相手に対しての感情の高ぶりが大きくなったことを経験した人が多いはずだ。
実はここでも研修所の「週末のマドンナ」と同じ現象が起きているのである。
しかし、自宅に戻って再びその人に会ったとしても、以前の時ほどテンションが上がらず、期待外れを経験した人が多いのも事実だ。
これはまさにリフレッシュして冷静になって相手を見ている週はじめの月曜日と同じ現象なのだ。

週末のマドンナビジネス

この閉ざされた環境が作り出す不思議な現象を利用したビジネスがある。
ここでの拘束時間が長くなればなる程、このビジネスは利益率が高くなるのが特徴だ。

数時間拘束の場合

東京~大阪間の移動は新幹線で約2時間30分かかる。
のぞみを使えば停車駅は1駅か2駅ぐらいだ。その約2時間30分のその間、ワゴン販売のサービスが2~3回くるが、必ずコーヒーを300円払って買ってしまう。
ポットから注がれるだけのあまりおいしくないコーヒーだが、いつも仕方がないと思いながらも、どこかでそんなもんだと勝手に納得している。
駅弁も何故あんなに高いんだろうと思う。
しかし、お腹が空いていれば仕方がないと思ってしまう。

この感覚の麻痺は新幹線の中で起こるものだが、潜在意識の中に刷り込まれると駅弁と名のつくものは高くても仕方がないと思ってしまう人も多い。
その証拠に、新幹線に乗る前にわざわざ駅弁を買う人や、デパートなどで駅弁フェアをやっていると思わず買う人などがたくさんいるのだ。
駅弁恐るべしである。

これは新幹線のコーヒーや駅弁だけでなく、映画館のポップコーンやドーム球場のビールにも同じことが言える。
所詮人間は感情で動く動物なのである。

新幹線のワゴン販売のサービス

数時間から半日拘束の場合

ディズニーランドのようなアミューズメントパークに遊びに行くと、少なくとも数時間から半日かかる。
当然パーク内の飲食品の価格は高い。ファストフード系でも1500円~2000円ぐらいかかる。
普段は節約している人でも一旦中に入るとこの世界はこういうもんなんだと納得しお金を使ってしまう人が多い。
何故だか財布のひもが緩みやすい状態になるのだ。

一日から数日拘束の場合

一日から数日かかる登山や船旅。
前項のように数時間後に外に出られるという状態ではなく、まったく外の世界と遮断されている状況だ。
ここでもあらゆる物価が高くなる。
例えば、富士山の山小屋で売られている水は500円/500ml、カップラーメンは1,000円もする。
山に運ぶ運賃込みとはいえ明らかに高い。
それでもこれ以外何もなければ有難いと思って買ってしまう。
ここまで来ると、今食べておかなければいつ食べられるのかわからないといった生死原理が強く働いてくるのだ。
このようなフィールドに一旦入れてしまえば、価格競争もなく、高い利益を追求できるうまいビジネスモデルが構築できる。

計算された週末のマドンナビジネス

上記のビジネスは、ただ閉ざされた空間に商品を設置すれば売れるというものでもなく、売れるための仕組みというものが存在している。

例えば新幹線の車内販売だが、たまに回ってくるだけで、敢えていつでも買える状態にはしていない。
もし、各車両に車内パーサーがいたり、各種自動販売機などが設置され、いつでも買える状態となっていれば、ありがたみも感じなくなる。
たまにパーサーが通り、いつまた売りに通るかがわからない状態だからこそ、高くても買ってしまうものなのだ。

要するに「このタイミングを逃したら、後はいつになるかわからない」と思う人間の心理が購買動機を高めるのだ。
今買っておかないと、次は「いつ来るか、いつ会えるか」「いつ飲めるか、いつ食べられるか」などの心理が、これからのビジネスの基盤に合っていることは間違いない。

このように人間心理をついたビジネスは実に面白い。
他にも同様のビジネスがないかどうか考えてみてはいかがか。
ひょっとしたら、あなたにも出来る、新しい「週末のマドンナビジネス」が眠っているかもしれない。